心の病気 病名と症状について


うつ病について

うつ病については、「こころの病」と理解するよりも、「過度な負担が脳や神経がかかり続けた結果、一時的に働きが弱ってしまい、一過性の軽い認知症のようになっている状態」と理解した方が、適切に治療について考えることができます。働きが弱った脳では、疲れやすかったり、根気が続かなくなったり、感情や衝動が抑えられなくなったり、簡単なミスが起きやすくなっていたりします。
したがって、うつ病から回復するためには、脳や神経に適切な休養を与えることで、その疲れを取り除くことが必要です。何かの目的達成を目指して気持ちを高揚して頑張っている時に、人は自分の脳や神経が弱っていることに鈍感になってしまい、無理をさせ続けてしまいます。このままでは、なかなかうつ病から回復することができません。脳や神経を休養させることができる、不安や焦りから解き放たれた、穏やかなこころの状態を創り出すことが目指されます。
脳や神経の休養にとっては、質の良い睡眠が不可欠です。そのためには、夕方以降のカフェイン摂取や、寝酒、夜間のインターネット等は、できるだけ控えるようにしましょう。食事・睡眠・運動といった規則正しい生活習慣を守ることは、精神的に不調な状態からの回復のためにも、とても重要なことになります。
抗うつ薬は、脳のコンディションの改善のために有効な、セロトニンやノルアドレナリンという神経伝達物質を活性化することに役立ちます。即効性のないお薬です。じっくりと飲み続けて 2週間から 1か月かけて効果が出現してきます。
なかなかうつ病がよくならず、焦る気持ちが続きやすい場合には、うつ病ではなくて躁うつ病(双極性障害)の可能性があります。その場合はお薬の種類を変えることが必要になります。
うつ病が治っている途中、あるいは治った直後は、まだ再発しやすい時期です。焦って薬を減らしたりせずに、無理な活動をさけてじっくりと過ごしてください。一呼吸おいてから、活動量を増やしたり、難しいことに取り組んだり、薬を減らしたりいたしましょう

うつ病とPTSDについて

PTSDについて

PTSDの診断は、生死にかかわるような、本当に危険な出来事に巻き込まれた場合に行われます。そして、 PTSDの精神医学的な本格的な治療が行われるのは、危険な状況が過ぎ去り、穏やかで平和な生活が取り戻されていることが前提となります。
トラウマ記憶は、その衝撃があまりに大きすぎるために、こころの中にある他の記憶や考えとの間に、トラウマを受けた本人なりの関連を付けることができないままになっています。消化できない異物がこころの中に残っていて、普段は蓋がされているけれども、何かのはずみでそれが外れると、混乱したままの記憶が恐ろしい強烈な恐怖などの感情をともなってこころを乗っ取ってしまうようなイメージです(再体験症状)。そのために、こころも体も常に身構えているような状態になります(覚醒亢進症状)。このような事態が続くと、「自分は不条理な事態に翻弄されるばかりで、それに抵抗することはできないんだ」といった悲観的な姿勢が強まってしまうことがあります(否定的な認知の強化)。そして、そのような記憶と関係のあるものごとを避けるようになります(回避症状)が、それによって生活の幅が狭くなり、実生活で充実感を持つことが妨げられてしまうと、さらに回復が難しくなってしまう可能性があるのです。
条件がそろっている場合に、認知行動療法の一種である持続エクスポージャー( Prolonged Exposure:PE)法と呼ばれる治療法が行われることがあります。これは、適切な方法を守りながら危険を避けつつトラウマ記憶そのものを取り扱う治療法です。
持続エクスポージャー法には、「想像エクスポージャー」といって、トラウマ記憶そのものを思い出す作業が含まれています。これを行うことで、以下の 5つのことが起きるようになり、それが PTSDの回復につながると考えられているのです。
まず一つは、トラウマ記憶は、いろいろな断片化した記憶や感情・考えがぐちゃぐちゃに混乱したままの場合が多いのです。そのために、たまたまトラウマ記憶の中に含まれてしまった関係のないものまでが、恐怖を引き起こす回避するもののように扱われていることがあります。また、無意味な混乱したものについては、それが自分の人生でどのような意味を持っているのかを理解することが難しく、その後の人生でそのことについて考えられなくなる危険性があります。トラウマ経験についての感情が整理され、実際に起きた出来事を冷静に中立的に思い返すことができるようになると、恐怖や不安に圧倒されることが減り、物事をあるがままにとらえることができるようになります(認知の再構成)。
そして次に、たとえトラウマ記憶が恐ろしい感情を刺激するのだとしても、現在の状況が恐ろしいものではないことが、お腹から理解できるようになってきます。
何回もくり返し思い出すことで、トラウマ記憶についての慣れが生じ、引き起こされる恐怖が軽減されていきます。
トラウマとなった出来事と類似した出来事を区別できるようになっていき、それによって生活が制限される部分が減っていきます。
そして、何よりも自分のこころが記憶に乗っ取られるような受身的なトラウマ記憶の再体験をしなくなることで、能動的に自分のこころをコントロールし、世界に働きかけていくことのできる感覚が強まるのです。
この持続エクスポージャー法に興味のある方は、当院でご相談ください。

パニック障害について

パニック障害はうつ病と合併することの多い病気です。
どちらも脳や神経が疲れて弱っている時に、症状が出現しやすくなります。ですから、治療の基本的な考え方も似ています。きちんと脳や神経を休ませることができる状況にして、改善に役立つようなお薬をきちんと飲むことをお勧めします。
脳の中には、恐怖を感じるような場面に反応して活性化する回路があるのですが、そこが不調になって自動的にスイッチが入ってしまうのが、パニック発作です。通常は数分から数十分持続します。その間に強い不安や恐怖・不快感に加えて、動悸・呼吸が早くなる・手から血の気が引く、などのさまざまな自律神経症状が出現します。必ず時間の経過とともに改善するのですが、その間の「死ぬのではないか」という恐怖が強まり、病院を受診される方も少なくありません。なお、診断が決まるまでは狭心症・心筋梗塞・不整脈のような心臓の病気を見落とさないようにすることも重要です。
発作時には、お薬を使用することもあります。また、深呼吸などをして、ゆったりとした副交感神経が優位な状況を作ることも大切です。
 

 

恐怖症について

恐怖症は、ある特定の対象に近づくと、強い恐怖を生じる状態です。
すぐ上で紹介したパニック障害の患者さんでは、パニック発作が起きた場所や状況に近づくことにたいして、恐怖症が出現する方がおられます。人ば集まるような場所で緊張してパニック障害を起こす方では、そのような場所に恐怖する場合があり、その症状は広場恐怖症と呼ばれます。
他にも運転(特に高速道路)、混んでいる電車に乗ることなどに恐怖を感じるかたもいます。
PTSDになるようなトラウマを経験した方の場合には、トラウマを思い出させるような場所や状況に恐怖を感じる場合があります。例えば、津波を経験した方は海に近づくことに恐怖を感じるかもしれません。
恐怖症の治療には、薬物療法が使用されることもあります。また、エクスポージャーという行動療法の技法が用いられることがあります。
エクスポージャーを行う準備として、自分が感じている恐怖・不快感の強さに1~100(1~10の場合もあります)で点数をつけてもらう練習をしてもらいます。そして、恐怖を感じるけれども、それがあまりにも強くなりすぎないような刺激を見つけ、そこから次第に慣れるような練習を行っていただくのです。
 

双極性障害(躁うつ病)について

双極性障害とうつ病は、見分けがつきにくいことがあります。しかし、両者を混同しないことが重要です。なぜならば、経過やお薬の効き方が違うからです。
やはり、一般的には双極性障害の方がうつ病よりも経過が長く、しっかりとお薬を飲み続ける必要性が高いなど、厳重な管理が必要となります。
うつ病の方に治療のために服用してもらう抗うつ薬を、双極性障害の方が使用すると、あおられるようになって気分が高揚したり、怒りっぽくなったりすることがあります。極端な場合とは、躁転といって病的な状態が誘発されることがあります。したがって、双極性障害の方の薬物療法としては、気分を安定させる効果のある薬を継続して服用していただくことが重要になります。ただし、経過中に抗うつ薬を服用してもらう場合もあり、診察の中で相談しながら決めていきます。
躁状態は、数日間極端に睡眠時間が短くても活動性が保たれる、せかされるように多弁で多動になるなどの特徴があり、気分は爽快な場合と怒りっぽい場合があります。浪費、攻撃的な言動、無謀な事業の開始、恋愛のトラブルなどが多くなり、社会的な信用を失うことにつながる言動が出現しやすく、注意が必要です。
落ち着いていくると、うつの時期がくりかえしたり、長引きやすくなるという経過になる場合が多いです。薬物療法に加え、「少し調子が良い時に、無理して行動し過ぎないように抑える」ことを意識してもらうことが重要場合もあります。
 

統合失調症について

統合失調症は10代から30代の若い時期に発症することが多い病気で、いろいろな「ストレス」に耐える力が弱く、さまざまな症状が出現してしまいます。たとえば、他の人に悪口を言われるというストレスがかかったとしましょう。元気な人なら気にしないかもしれません。しかし、状態が悪い統合失調症の方でしたら、「自分など必要ない、死ねと言ってくる」幻聴が聞こえてくるようなことが起きるかもしれません。
そのため、援助がない場合に社会的な場面からひきこもりやすくなります。人間の社会は、競争という一面があります。どうしても、対人的な刺激に敏感な統合失調症の方は、そのような競争の場面に巻き込まれると、症状が出現しやすく、社会的な活動の場面が制限されてしまうのです。したがって、軽症の方をのぞいて、長期的に統合失調症の治療に取り組む場合には、デイケアや就労支援施設のような場所で、自分に合った人たちと過ごせるような環境が整えられることが大事です。当院は外来のみでデイケア等がないため、必要な場合には外部の機関と協力を行っています。
統合失調症の症状は幻覚・妄想・興奮といった陽性症状と、意欲低下や社会的な物事への関心の低下などの陰性症状の二種類に分けられます。陽性症状については、しっかりとお薬を飲んで安全な場所で過ごしてもらうことが重要です。陰性症状には、じっくりとしたアプローチが必要になります。

認知症について

認知症は高齢者に発症し、3~10年の経過で物忘れからはじまって、さまざまな心身の機能が低下していく病気です。「もの忘れ」は脳の病気の症状としてそうなってしまうもので、本人も苦しんでいるところですから、周囲はそのことを強く注意しないようにしてください。
日本で一番多いのはアルツハイマー型認知症です。最初に、新しいことを覚えられなくなる記銘力(きめいりょく)障害という症状が現れます。この時期に、自分でものを無くしてしまい、それなのに周囲の人がそのものを盗んだと主張する「もの盗られ妄想」という症状が出現することがあります。
他にも、脳血管性認知症、レビー小体型認知症、側頭前頭型認知症などがあります。少しずつわからないことやできないことが増えていきます。また、体の具合が悪いと認知症のような症状が出現することがあります。それらを見逃さないで、体の状態をよくしていくことは、常に意識される必要があります。
認知症に対するお薬は、さまざまな研究・開発が行われていますが、現在のところはまだ制限が多い状況です。
介護保険の申請など、福祉分野と連携していくことが非常に重要です。
興奮・徘徊・怒りっぽくなるなどの症状が、経過中の一時期に出現する場合があります。その場合には、その症状を抑えるような対応が必要になることがあります。

発達障害について

発達障害にはいくつかの種類がありますが、代表的なのは自閉スペクトラム症とADHD(注意欠如多動症)です。両方が合併することがります。
発達特性については、生まれついて持っている脳の癖だと理解されます。その部分についての修正を本人に求めることを強制せずに、発達障害の人でも生きやすい環境を整える合理的配慮(ごうりてきはいりょ)が重要だと考えられるようになります。
人間の脳は、環境からの情報を取り込んでいますが、実は他の人間の表情・口調・動きなどに強い興味を向けて、情報を集めています。自閉スペクトラム症の方の脳は、どうやらこの方面への集中が弱いようなのです。そこから対人的な空間の空気を読むことが苦手という特徴が生じます。その分、自分なりのこだわりが強くなる場合もあります。ただし、自閉スペクトラム症の方でも、療育などを通じてかなり社会的な場に溶け込むことができるようになる場合もあります。
ADHDの方は、不注意と多動・衝動性が症状の中心です。特に不注意については、薬物療法が有効な場合があります。
発達障害の場合には、その場で少数派になってしまうことが多く、特にADHDの方は周囲の方から叱られたり注意されやすいようです。その結果、自分に自信がなくなったりといった二次障害が生じる場合も多いのです。このような二次障害を防ぐというのも発達障害の方とかかわる場合には重要な視点です。
軽症の方の場合に、大人になってから見つかる場合もあります。当院でも、知能検査(WAIS-4)と自閉スペクトラム症とADHDのスクリーニング検査は実施できるようにしています。気になる方は、ご相談ください。

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